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胸元のブローチと、めぐる夏
庭先で見つけた、「ブローチ」の記憶
実家の玄関を開けると、ひんやりとしたエアコンの風と、どこか懐かしい実家独特の匂いが私を迎えてくれた。
荷物を置いて一息つき、ふと庭に面した窓の外に目をやると小さな影が残されていた。蝉の抜け殻だ。
爪の先端の引っかかりを利用してTシャツの胸元にくっつけ、「ブローチ!」なんて言って誇らしげに笑っていたあの頃の記憶が鮮やかによみがえる。
けれど大人になった今の私は、手を伸ばす前に「触っても大丈夫だっけ…?」と一瞬躊躇してしまう。
服が汚れないかといった損得勘定や大人の理性が、知らず知らずのうちに私と世界との間にフィルターを作っていたのかもしれない。
2歳の息子と重ねる夏

「あ、あーっ!」
靴を履いて庭へ出ると、てくてくと歩み寄ってきた息子が、小さなお手てで指さした。
まだ言葉にならない声をあげながら、まん丸にした目でその茶色い殻をじーっと見つめている。
「これね、セミさんの抜け殻だよ」と教えてあげると、ちいさな指先で恐る恐る触れようとする息子。
かつて胸に抜け殻をつけて無邪気に遊んでいた少女は、いま母となり、まったく同じキラキラした目で不思議そうにそれを見つめる我が子を隣で見つめている。
「7日間の儚さ」ではなく、全身全霊で生きる強さ

「地上に出てからの命は、たったの7日間」
人はよくそれを「儚い」と形容する。
けれど、土の暗闇の中で静かに過ごした数年間を経て、彼らは今、全身全霊でこの眩しい世界を生き切っているのだ。
私たちが目にするその姿は、悲劇などではなく、長年の準備を経てたどり着いた「生の絶頂期」そのものなのかもしれない。
時間の長さにばかり気を取られ、日常の「濃さ」を見失っていたのは私の方だった。
頭上からは、ジリジリと降り注ぐ太陽と大合唱する蝉の声。
息子のちいさな手を握り、涼しい部屋を背にして、まぶしい青空を見上げて深く息を吸い込む。
私たちの小さな夏休みが静かに始まった。
この記事を書いた人
Hirohi