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introspection——わたしの奥に潜るポータル

長野県・八ヶ岳南麓を拠点に活動するアーティスト、田代敏朗。あまりに繊細で、その美しい色の世界《introspection》に魅了された者の話です。

 

《introspection》

自分の心の内側、感情や思考、動悸を静かに観察する——その行為そのものが作品に昇華されているのか。不思議なもので、毎日その絵を眺めていると、日によって浮かび上がる色、レイアウトが違う。まるで毎日、毎分、毎秒、変化し流れていく空模様のように、見え方が違う。つまりは、動いて見えるのです。

その理由については、いずれ気づくことになるのです。

椅子に座りながら、その固定された四角い、美しい色の世界を眺めるとき、完全に身体を失い、ハートだけになります。introspection。自分への観察を始めてみました。眺めるのが心地よい作品のおかげで、入り口に立つのはとてもイージーで、安心して深く潜っていける気がしました。

さて、田代さんの過去の作品を遡ってみると、長いアーティスト活動における作品の大きな特徴が「振れ幅」だと感じます。

抽象的な静謐さ、壊れた文字の断片、圧倒的な色彩の奔流。どの作品もスタイルの一貫性に安住していないのです。そういった意味では、こちらに「安心」を差し出してはくれず、その振れ幅の大きさに圧倒され、少しうろたえるのですが、そのぶん問いかけとしての純度がとても高く、作品に触れる時間としての密度は高くなります。

安心を与えてくれる、田代さんの《introspection》に話を戻しましょう。

公式HPのトップでは、一つの作品として完璧に立ち上がっているTypographyが、目に飛び込んできます。添えられたものではなく、《introspection》という作品そのものを象徴する、優しくも力強い言霊なのですが、Typographyによってぼやけ、結局はかき消されていく——その姿がとても気に入っています。

人間は「言葉」にした瞬間、人の分だけ解釈が生まれ、人の分だけ捉え方が生まれ、人の分だけ受け取り方が生まれ、言葉によって世界がどんどん切り取られていくのです。それが、分断を生むのです。言葉を消し、言霊を消し、四角い、美しい色の世界だけが、鑑賞者の人生そのものに向けられており、一切の正解を作りません。とか言いながら、手前、言葉を使い田代さんの作品を熱く語る未熟者ですが。

飾られた絵を介して自身に潜っていくたびに違って見える、その四角い、美しい色の世界。そっか、変化しているのは四角い、美しい色の世界ではなく、「わたし」だったんだと気づくのです。

this vision is your mirror.

幾度となく繰り返し観察することによって、自分の弱さと向き合える。その行為は時にとても苦しく、目を背けたくなることもあるでしょう。途方に暮れて、諦め、立ち止まることもあるでしょう。真剣に生きていれば、誰にでもある暗黒期。そんな時、田代さんの《introspection》がポータルならば、そう、冒頭に記したように、安心して観察を始め、潜っていけるのです。

弱さを知り、人は強くなる。

アート鑑賞、ヨガ、ランニング、瞑想。手段はきっと何でも良くて。自分に合った方法を使って、白の自分も黒の自分も知ることから、すべては始まると思っています。その先に待っている世界がどんなものなのか、恐れずに進んでいきたいですね。

この記事を書いた人

駒田商店

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